慌ただしい葬儀の準備に追われる中で、あえて自宅に帰らず不慣れな葬儀場に宿泊することを選んだ遺族の方々に話を聞くと、そこには肉体的な負担を超えた精神的なメリットと、かけがえのない時間の共有があったことが見えてきます。最大のメリットとして挙げられるのは、やはり「故人とずっと一緒にいられる」という点であり、病院で亡くなってからすぐに安置所に運ばれ、ゆっくり顔を見る暇もなかったという遺族にとって、静まり返った夜の斎場で、誰にも邪魔されずに故人の顔を見つめ、語りかけ、手を握ることができる時間は、悲しみを受け入れるためにどうしても必要なプロセスだったといいます。自宅での葬儀が減り、斎場での葬儀が主流になった今、この「通夜の晩」こそが、家族だけで過ごせる実質的に最後のプライベートタイムとなっており、昔話に花を咲かせたり、兄弟姉妹で布団を並べて久しぶりに深く語り合ったりすることで、家族の絆が再確認できたという声も多く聞かれます。また、実務的なメリットとしては、移動の手間と時間が省けるという点が大きく、一度自宅に帰って翌朝また早起きして喪服に着替えて移動するというのは、心身ともに疲弊している遺族にとってはかなりの重労働ですが、斎場に泊まってしまえばギリギリまで寝ていられますし、忘れ物の心配もありません。さらに、遠方から来た親戚にとっては、ホテルを手配する手間や費用を節約でき、遺族とゆっくり話す機会も持てるため、一石二鳥の選択肢となることもあります。もちろん、慣れない布団で背中が痛くなったり、熟睡できなかったりというデメリットはありますが、それを補って余りある「別れの濃密な時間」を過ごせたという満足感は、何物にも代えがたい心の財産となり、後になって「あの夜、泊まってよかったね」と家族で振り返ることのできる温かい思い出となるのです。