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  • 突然の訃報で靴下を間違えた日の話

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    その電話が鳴ったのは、平日の仕事も終盤に差し掛かった夕方のことでした。お世話になった元上司の訃報。信じられない気持ちと、すぐにでも駆けつけなければという焦りで、私の頭は真っ白になりました。幸い、会社のロッカーには最低限の備えとして喪服を置いていましたが、それはあくまでジャケットとワンピースだけ。ストッキングや靴、そして靴下のことなど、まったく頭にありませんでした。通夜は今夜。私は慌てて会社を飛び出し、自宅へ向かう途中の駅で必要なものを揃えようと決意しました。しかし、慣れない駅の周りには思うような店がなく、時間だけが刻々と過ぎていきます。ようやく見つけたドラッグストアで黒いストッキングは手に入ったものの、ふと自分の足元を見て愕然としました。その日私が履いていたのは、明るいグレーの地に小さな水玉模様が入った、お気に入りの靴下だったのです。これでは、とてもじゃないけれど斎場には上がれない。焦燥感に駆られながらコンビニに駆け込み、ようやく紳士用の黒い靴下を見つけました。サイズが合うか不安でしたが、選んでいる余裕などありません。なんとか通夜には間に合ったものの、斎場の入り口で急いで履き替える自分の姿は、あまりにもみっともないものでした。席に着いてからも、自分の準備不足が恥ずかしく、故人を偲ぶ気持ちに集中するのに時間がかかりました。この経験を通じて私が学んだのは、備えの大切さです。訃報はいつ訪れるかわかりません。喪服だけではなく、靴やバッグ、そしてストッキングや靴下といった小物まで一式を揃えておくことが、いかに心に余裕をもたらしてくれるか。それは単なるマナーの問題ではなく、故人とご遺族に真摯に向き合うための、自分自身への礼儀なのだと痛感しました。あの日以来、私のクローゼットには、いつでも完璧な状態で取り出せる喪服セットが常備されています。あの日の失敗が、私に大切なことを教えてくれたのです。