父を直葬で見送った私が支払った費用とその想い
父は生前、常々「俺が死んだら、葬式なんて大げさなことはするな。坊主もいらん。迷惑かけずに、静かに焼いてくれればそれでいい」と口にしていました。その言葉が冗談でないことを知っていた私は、父が息を引き取った時、迷うことなく直葬という形を選ぶことにしました。病院の霊安室で葬儀社の方と打ち合わせをし、提示されたのは約25万円の直葬プランでした。通夜も告別式も行わず、火葬場で父を見送るだけの、本当にシンプルな内容です。その内訳は、病院から安置施設への搬送、2日間の安置料金、質素ながらも清潔な棺、そして骨壺。正直なところ、あまりの安さに少し驚いたほどです。父の遺志とはいえ、こんなに簡素な形で見送ることが、果たして親孝行と言えるのだろうか。一抹の寂しさや不安が心をよぎらなかったと言えば、嘘になります。しかし、実際に費用として支払った総額は、火葬場の料金を加えても30万円ほどでした。もし一般的な葬儀を行っていれば、この何倍もの費用がかかっていたことでしょう。父が遺してくれたけっして多くはない財産を、葬儀で使い果たしてしまうことこそ、父が最も望まないことだと思い至りました。火葬当日、集まったのは母と私、そして弟家族の数人だけでした。炉の前で、父の棺に花を添え、静かに手を合わせる。短い時間でしたが、誰に気兼ねすることもなく、家族だけで父との最後の時間を過ごせたことは、かえって良かったのかもしれません。弔いの形は、費用の多寡で決まるものではない。残された者が故人を心から想い、その人らしい見送り方を考えることこそが、本当の供養なのだと、父は身をもって教えてくれた気がします。