葬儀に落雁を供える本当の意味
葬儀の祭壇に、蓮の花や果物の形をかたどった色鮮やかなお菓子が供えられているのを目にしたことがある方は多いでしょう。これが落雁(らくがん)と呼ばれる干菓子です。落雁は、米や大豆などの粉に砂糖や水あめを加えて練り、木型で押し固めて乾燥させたもので、古くから日本の弔事において重要なお供え物とされてきました。では、なぜ葬儀の場で落雁が供えられるのでしょうか。その背景には、仏教の教えと故人への深い想いが込められています。仏教において、蓮の花は特別な意味を持ちます。泥の中から生まれながらも、清らかで美しい花を咲かせる蓮は、煩悩に満ちた俗世にありながらも悟りを開くことができる仏の智慧や慈悲の象徴とされています。そのため、蓮の花をかたどった落雁を供えることは、故人が極楽浄土で安らかに往生してほしいという遺族や参列者の切なる願いを表しているのです。また、果物の形をした落雁もよく見られますが、これもお供え物の基本である「五供(ごくう)」の一つ、「飲食(おんじき)」に通じるものです。故人が彼の世で食べ物に困ることがないように、という祈りが込められています。さらに、落雁が日持ちのする干菓子であることも、お供え物として選ばれる理由の一つです。生花や生の果物と異なり、長期間にわたって祭壇を飾り、故人を供養することができます。美しい見た目でありながら、華美になりすぎない素朴な佇まいは、厳粛な葬儀の場にふさわしく、静かに故人を偲ぶ空間を演出します。単なるお菓子としてではなく、故人の冥福を祈り、遺された人々の心を繋ぐ象徴として、落雁は日本の葬儀文化に深く根付いているのです。その形や色に込められた意味を理解することで、祭壇に手を合わせる際の気持ちも、より一層深いものになることでしょう。