かつての日本の葬儀では、通夜の晩に遺族が交代で起き、線香の火を絶やさないようにする「寝ずの番」が常識とされてきましたが、現代の葬儀事情や防災上の観点から、そのあり方は大きく変化しており、必ずしも一晩中起きていなければならないというわけではありません。そもそも線香の番をする目的は、線香の煙と香りで死臭を消すため、あるいは悪霊が寄ってこないように結界を張るため、そして蘇生した際にすぐに気づけるようにするためといった理由がありましたが、ドライアイスによるご遺体の保全技術が発達し、斎場のセキュリティもしっかりしている現代においては、実質的な必要性は薄れています。さらに、多くの葬儀場では消防法の規定や防火管理の観点から、夜間の火気使用(線香やロウソク)を禁止し、電気式の線香やLEDロウソクの使用を推奨しているところが増えており、そもそも「火を絶やさない」という行為自体が物理的に不可能なケースも多くなっています。最近では、「渦巻き線香」と呼ばれる長時間燃焼するタイプのものを使用すれば10時間以上持ちますので、これをセットしておけば誰も起きていなくても線香を絶やすことなく朝を迎えることができますし、何より翌日の告別式という体力を消耗する大一番を控えた遺族が、睡眠不足で倒れてしまっては元も子もありません。ですので、現代の「寝ずの番」は、形式的に起きていることよりも、故人と同じ空間で休み、心の中で寄り添うこと(添い寝)に重きが置かれるようになっており、無理をして起きている必要はないと僧侶や葬儀社からもアドバイスされることが一般的です。とはいえ、昔気質の親戚の中には「誰か起きていなければならない」と主張する人もいるかもしれませんので、その場合は渦巻き線香を活用しつつ、「交代でしっかり休んで明日に備えましょう」と提案し、伝統を守りつつも現代の事情に合わせた柔軟な対応をとることが、トラブルを避ける賢い方法と言えるでしょう。