葬儀の費用を考える際、多くの人が「いただいた香典で支払えるのではないか」と期待します。確かに、香典は葬儀費用の大きな助けとなりますが、前金の支払いに関しては、この香典を当てにすることはできない、という現実を理解しておく必要があります。その理由は、時系列の問題です。前金の支払いが求められるのは、葬儀社と契約を結んだ後、つまり「お通夜が始まる前」です。一方、参列者から香典をいただくのは、「お通夜や告別式の受付」です。つまり、前金を支払わなければならない時点では、まだ香典は一円も手元に入ってきていないのです。したがって、葬儀の前金は、香典とは切り離し、ご遺族が自前で用意しなければならない費用である、と認識しておくことが重要です。では、いただいた香典は、その後どのように活用されるのでしょうか。お通夜や告別式で集まった香典は、まず受付係から喪主へと渡され、厳重に管理されます。そして、葬儀がすべて終わった後、葬儀社から提示される最終的な請求額のうち、前金を差し引いた「残金」の支払いに充当するのが一般的です。例えば、総額百五十万円の葬儀で、前金として七十万円を支払っていた場合、残金は八十万円となります。もし、いただいた香典の総額が百万円だったとすれば、その中から残金の八十万円を支払い、残った二十万円が、今後の法要の費用や、香典返しの費用、あるいは遺族の生活費などに充てられる、という流れになります。もちろん、香典の金額は、参列者の人数や故人との関係性によって大きく変動するため、必ずしも葬儀費用を全額カバーできるとは限りません。香典はあくまで「ご厚意」であり、それを前提とした資金計画を立てるのは避けるべきです。