葬儀に参列する際、もし自分の数珠を持っていなかったら、家族や友人に「ちょっと貸して」とお願いしたくなるかもしれません。しかし、これはマナーとして絶対に避けるべき行為です。数珠は、たとえ家族間であっても、貸し借りをしてはいけない、というのが古くからの習わしです。なぜ、数珠の貸し借りは禁じられているのでしょうか。その背景には、数珠が持つ、非常に個人的で神聖な意味合いがあります。数珠は、単なる仏具ではなく、持ち主の「分身」であり、その人の念が込められたお守りであると考えられています。日々の祈りや、大切な人の葬儀で手を合わせた時、その人の想いや祈りが、一粒一粒の珠に染み込んでいく。そうして、数珠は持ち主だけの、パーソナルな法具となっていくのです。そのような、個人の念が宿ったものを他人に貸すことは、自分の分身を貸すことであり、また、他人の念がこもったものを借りることは、その人の因縁まで背負ってしまうことになりかねない、と考えられてきました。また、仏教の教えの観点からも、数珠は仏様と持ち主とを繋ぐ大切な法具です。それを他人に貸すことは、仏様とのご縁を貸すことになり、借りた側も、他人のご縁で仏様に手を合わせることになってしまいます。これは、仏様に対して失礼にあたるとされています。さらに、現実的な理由として、数珠は持ち主の信仰する宗派に合わせた、大切なものである場合もあります。それを他宗派の人が使うことは、やはり望ましくありません。もし、葬儀の場で自分の数珠がないことに気づいた場合は、無理に誰かから借りようとするのではなく、数珠を持たずに、心を込めて丁寧に合掌する方が、よほどマナーにかなっています。数珠の貸し借りをしないというルールは、この仏具が持つ神聖さと、個人の信仰心を尊重するための、大切な戒めなのです。
数珠は貸し借りしてはいけないその理由