葬儀や法事といった弔事の場で、多くの人が手にしている「数珠(じゅず)」。私たちは、なぜこの仏具を持参するのでしょうか。その意味を深く理解することは、故人を偲ぶ気持ちをより一層深め、作法の一つひとつに心を込める助けとなります。数珠は、もともと僧侶がお経を読む回数を数えるために使われていた仏具で、「念珠(ねんじゅ)」とも呼ばれます。その珠の数は、人間の持つ百八つの煩悩を表すとされ、数珠を持つことで煩悩が消え、心が清らかになると信じられてきました。葬儀の場で私たちが数珠を持つことには、いくつかの大切な意味が込められています。一つは、故人への「供養の心」を表すことです。数珠を手にし、仏様や故人と向き合うことで、私たちは敬虔な気持ちを形にし、故人の冥福を心から祈ります。数珠は、その祈りを仏様の世界へ届けるための、大切な架け橋の役割を果たすのです。もう一つの意味は、「自分自身の厄除け・お守り」としての役割です。葬儀という場には、様々な想いが渦巻いています。数珠は、そうした場において、持ち主を悪い気から守り、心の平穏を保ってくれるお守りであるとも考えられています。そして、数珠を持つという行為そのものが、仏教徒としての自身の信仰心を表し、仏様への帰依を示すという意味合いも持っています。このように、数珠は単なるアクセサリーや形式的な小道具ではありません。それは、故人を敬い、仏様と繋がり、自身の心を整えるための、極めて重要な意味を持つ仏具なのです。たとえ特定の宗派に属していなくても、葬儀に参列する際には、故人への敬意を示すため、そして日本の美しい弔いの文化を尊重するためにも、ぜひ自分の数珠を一本用意しておきたいものです。